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財産分与とは?
結婚後、夫婦が協力をして築き上げた財産(共有財産)を離婚時に清算をすることを「財産分与」といい、厳密にはこれを「清算的財産分与」と言います。一般的に言われる財産分与は、この清算的財産分与のことを指し、ほとんどの場合は”婚姻期間中に夫婦が築いた財産を折半する”という形で解決を図っています。なお、この清算的財産分与の他にも、「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」など、他の意味合いを含む場合もありますが、これらは例外的なものですので、清算的財産分与について以下に説明していきます。
一般的に”財産分与”と言われているものは、婚姻期間中に夫婦で築き上げた共有財産を清算する財産分与のこと指し、法律的には清算的財産分与といいます。財産の名義や権利が、夫や妻のどちらか一方のものであったとしても、財産を築くには夫婦の協力があったと考えられ、裁判などでは貢献度の割合により財産を分配する方法が採用されています。
慰謝料的財産分与は精神的損害に対する賠償という性質を持つ財産分与です。従って、精神的損害がないような場合は慰謝料的財産分与は発生しません。一般的に、財産分与に慰謝料も含めてしまうことが多く、最高裁判所も財産分与に離婚による慰謝料を含めることを認めています。
財産分与に慰謝料が含まれて、精神的な損害に対して十分に補てんがされている場合、原則として配偶者の不貞行為等を理由に慰謝料を請求することはできません。但し、慰謝料的財産分与を含めて財産分与がされていたとしても、精神的苦痛に対して十分に補てんされたとはいえないと認められる場合には、別に慰謝料を請求することができます。
慰謝料的財産分与は、名称が財産分与でも、実質は慰謝料なので、契約書の中で「財産分与」とだけ記載してしまうと、後になって「慰謝料を含んだ財産分与」なのか「慰謝料を含まない財産分与」という点でトラブルに発展する可能性があります。細かいことですが、取り決めをする際は後日の争いを防ぐ表現方法を用いましょう。
離婚後の扶養を目的とした財産分与のことを「扶養的財産分与」といいます。これは、離婚に際して、配偶者の一方に経済的な不安がある場合、経済的援助という形で他方の配偶者が生活費をサポートする形のものです。金額を決める際は「年齢・健康状態・離婚後の生活の見通し・再就職の可能性・再婚の可能性」などの事情を考慮します。これらの事情を前提として、請求者が生計を維持できる程度で財産分与が認められるとするのが判例の立場です。
扶養的財産分与が認められやすいケース
- 長年専業主婦だった妻が高齢(病気)等で職に就けない
- 幼い子供を一人で養育しており職に就けず生活が困窮している
- 清算的財産分与や慰謝料が少額で生活を維持できない
扶養的財産分与が認められにくいケース
- 請求者には生計を維持できるだけの資力(収入・資産)がある
- 分与を請求される側に一方を扶養できる経済的余力がない
扶養的財産分与が認められた場合、少なくとも夫は、妻の経済的自立の目処がたつまでの間、生活を保障しなければなりません。
財産分与の対象財産
財産分与はあくまでも「離婚の際に現にある資産」で、しかも「夫婦が結婚してから築いた資産」を対象とします。そのため、結婚してからわずか数ヶ月で離婚する場合とか、長年連れ添ってきたが何の蓄えもないとう場合には財産分与がゼロということもあり得るのです。
また、夫名義の土地や建物がたくさんあっても、それが夫の父から相続した財産である場合には財産分与の対象にはなりません。 ただし、離婚後の扶養や慰謝料を含む意味の財産分与では婚姻後築いた財産がなくとも例外的に夫が親から相続した財産についても分与が認められる場合もあります。
不動産が含まれている場合
財産分与は夫婦の間に現にある資産の分配です。従って、金銭の請求に限らず、不動産などの物で請求することもできます。資産がたくさんあって「妻が自宅を取得する代わりに夫は別荘を取得する」などということができればよいのですが、唯一の資産が自宅で他には何もないというような場合には、少々面倒なことがおきます。離婚した夫婦が一つの不動産を共有するということは現実には難しいからです。このような場合は、どちらか一方が不動産を取得する代わりに、他方に対しては、2分の1に相当するお金を支払うか、または不動産を第三者に売ってその代金を2分の1ずつに分けるかするのが適当でしょう。
財産分与が分割払いになる場合はできるだけ公正証書に
財産分与や慰謝料の清算は、離婚時の一括清算が望ましいといえます。しかし、実際には相手方の支払能力から分割払いに応じざるを得なかったり、不動産を売却しないとお金の用意ができなかったりして、支払いが離婚後に残る場合が出てきます。調停や裁判で決まった条件なら、調停調書や判決に基づいて強制執行できますが、協議離婚の場合に支払いが後に残るような条件の場合は注意しなければなりません。
口約束だけ信用できないのはもちろんのことですが、たとえ二人の間で契約書を作っていても、直ちに強制執行をすることはできません。なぜなら、二人で作った契約書は「当事者本人が間違いなく契約をした」といえるほどの絶対的な証拠力までは無いからです。ですから、私文書の強制執行をする場合は一旦「契約書の約定を履行せよ」という裁判を起こして判決を得なければなりません。
本人が直筆で署名捺印した契約書があれば、契約書の真正が認められることはほぼ間違いないとは思いますが、その判決を得るまでの手間はどうしても避けられません。相手方が契約をした事実を素直に認めれば早期に解決できると思いますが、「そんな契約をした覚えは無い」などと言われようものなら、証人の証言の準備や筆跡鑑定などのために、相当の手間と費用と時間を要することになります。
そのような面倒を避けられるのが公正証書です。公正証書なら「公証人の前で契約したこと」に関する信頼性があるので、債務者が金銭の支払いを怠ったら直ちに強制執行できます。金銭債務が分割払いには必ず「不払い」というリスクがありますので、万が一に備え、即座に強制執行ができる公正証書を作成するようにしましょう。
分割払いにすべきかどうかの判断
財産分与や慰謝料は原則「一括払い」ですが、当事者が合意すれば分割払いにすることができます。財産分与は本来「現にある資産の清算」なので、分割払いということはあり得ないように思われます。しかし「夫が不動産を承継する代わりに、妻に一定額の代償金を財産分与を支払う」といったケースでは、妻が代償金を払えるだけの保有資金がなければ清算はできませんので、分割払いにしなければならなくなります。
清算がすぐに終結しないデメリットはありますが、支払ってもらう総額の観点から考えると「大きな金額でも分割なら支払いに応じてもらいやすい」というメリットがあることも確かです。ただ、あまりに長い期間にわたる分割払いは、途中で相手に支払う意思がなくなったり、事情が変わって支払えなくなったりすることも多いので避けるべきです。離婚後、夫が再婚して新しい妻に子どもができたりすると、よくこうした問題が起きます。離婚後の誠実な履行が期待できないような場合には多少総額の点で低くなっても、一括払いを選ぶべきでしょう。
財産の清算は離婚前にしておかないと後で厄介なことに・・・
財産分与や慰謝料を最も確実に支払ってもらう方法は、支払ってもらうまで離婚しないことです。例えば、相手方が早く離婚したがっている場合は、「離婚届にサインしないこと」が重要なポイントとなりますので「~をしてくれないと離婚しない」と明確に告げた方がいいでしょう。とはいえ「夫婦喧嘩の勢いで何も取り決めずに離婚しましたが、今から慰謝料や財産分与は請求できませんか」がという相談はよくあります。
結論から言えば、財産分与は離婚後2年以内、慰謝料は3年以内は請求できます。ただし、一旦離婚が成立すると、その後の財産分与や慰謝料の請求は以前より進みにくいと言えるでしょう。なぜなら、請求を受ける側とすれば、一旦離婚が成立すると「離婚するために財産分与や慰謝料の問題を片づけよう」という動機を失うからです。考えてみれば単純なことです。財産分与や慰謝料の請求を受ける側にとっては、自分のお金が少なくなるような手続きですから、なるべくしたく避けたいと思っているわけです。
もっと言えば「2~3年放置して時効にできたら・・・」というのが「請求を受ける側のよくある本音」といったところです。このようにして協議が進まないと、調停や審判等の手続きに進むわけですが、このような展開は決してお互いのためにはなるものではありません。厄介な問題は後回しにしたい気持ちは分かりますが、明確な取り決めをしないまま中途半端な形で離婚を成立させると、後が大変です。財産分与や慰謝料の問題は、なるべく離婚の際に解決するよう心掛けましょう。
財産開示手続
民事執行法改正により新しくできた制度が「財産開示手続」です。これまでの金銭執行の手続では、債権者は執行の対象たる債務者の財産を特定して手続きの開始を申立てることが必要でした。しかし、債権者には債務者の財産を探すための法的手段が与えられていないため、債務名義を取得しても、執行手続を開始することが困難な場合も多かったのです。そこで、改正法は、債権者の申立に基づいて、裁判所が債務者に対し財産の開示を命じる手続きを創設しました(民執第196条~第207条)。
財産状況の陳述
債務者が養育費を支払ってくれなくなった場合は、裁判所に「債務者を呼び出してくれ」と申立ができます。すると裁判所は、「何月何日に裁判所に出頭しろ」と債務者を呼び出してくれます。出頭した債務者は宣誓をした上で自分の財産状況を陳述しなければなりません。裁判官のみならず申し立てた債権者の質問にまで答えなくてなりません。
- 申し立て
- 実施決定(債務者の財産を開示させる手続を実施するという決定)
- 財産開示期日の指定
- 財産目録の提出
- 出頭
- 宣誓
- 財産を開示する陳述
※虚偽の陳述には、過料の制裁が加えられます。
申立資格を持つのは、執行力(強制執行を認めるという裁判所のお墨付き)のある確定判決や和解調書等を有する債権者です。執行力があるものであっても執行受諾文言付公正証書ではダメです。そしてこの債権者が債務者の財産を競売しても回収できなかった場合ないしは回収できそうもないと説明できた場合に、申し立てられます。(改正民事執行法第197条)
開示を命じられた債務者は、裁判所で開かれる開示期日に出頭し、宣誓した上で、自分の財産について陳述し、また裁判所や申立人の質問に答えなければなりません。正当な理由もなく出頭しなかったり、宣誓を拒否したり、陳述を拒否したり、虚偽の陳述をした場合は過料が科せられます(民執第199条、第200条)。開示手続を円滑に行うためには、あらかじめ債務者から開示する財産の目録を書面で提出させる必要があるでしょう。
債務者は債権者から身を守ろうとして、不動産や預金の名義変更をすることがよくあります。債務者が陳述しなければならないのは陳述時点での財産状態であり、名義変更済み財産への陳述は不要です。
したがって債務者はホッとするかもしれませんが、債権者は債務者に対して質問をすることができます。「家族名義に預金を移したのか?、実質はあなたのだろう?」と質問され、裁判官の前で嘘をつくには余程の度胸がいりますし、罰則の対象にもなります。移転したことが分かれば、その結果によっては詐害行為取消権として、過去の贈与や売買を、債権者の立場から取り消そうとすることも可能になります。
財産開示制度の創設にあたっては、債務者のプライバシーの侵害や濫用、債務者に不当な圧力を加えるおそれがあるなどの理由から次のような対策が施されました。
- 債務名義が限定されている
基本となる債務名義の種類が限定されました。執行証書(執行認諾条項付公正証書など)などの債務名義は除かれた、ということです。 - 3年の開示制限
一度開示がなされると原則として3年間はその債務者に対して開示を命じることはできない。(第197条第3項) - 開示期日は非公開
- 記録は関係者だけに開示
開示事件の記録中、開示期日に関する部分の閲覧は、申立人、それと同等の資格(債務名義の所持など)を有する債権者、債務者等に限って許されています。 - 目的外利用は禁止
申立人および記録の閲覧等をした者が得た情報の目的外利用・提供は禁止される(民執第201条・第202条)。
財産分与に伴う税金
財産分与を受ける(もらう)側の税金
財産分与(または慰謝料)は、受け取る物が何であろうと、”受ける側”に税金はかかりません。これは財産分与が贈与ではなく「夫婦の財産関係の清算、あるいは離婚後の生活保障のための給付」と考えられるからです。ただし、周りからは何が贈与で何が財産分与なのか確認できるものが必要です。
例えば、離婚後に税務署から「この通帳に振り込まれた500万円は贈与ではないか」などと指摘を受けた時、財産分与であることを証明するものがなければ、贈与税の支払いを求められる可能性が出てきます。財産分与として受け取った財産である、との証拠を残す意味からも、離婚協議書などの書面を作成しておいた方が良いことは確かと言えるでしょう。ただし、次の場合には贈与税がかかる可能性があるので注意してください。
- 財産分与の額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎると考えられる場合、多過ぎる部分に対して贈与税がかかります。
- 離婚が「贈与税や相続税を免れるために行われた」と認められる場合、離婚によって得た財産すべてに対して贈与税がかかります。
- 財産分与や慰謝料の支払いを不動産で受ける場合には、登記原因を財産分与や慰謝料とする必要があります。登記手続きを司法書士に依頼する際、離婚を隠して単に「妻名義にしてほしい」と依頼し、登記原因が「贈与」になって、後から高い贈与税を課されそうになった例もありますので注意しましょう。
財産分与で譲渡する側の税金
財産分与(または慰謝料)を金銭以外の財産で支払った者には、譲渡所得税がかかることがあります。財産分与で利益があるわけでもないのに税金がかかるのはおかしな話のように感じられるかもしれませんが、これは税法上の難しい理屈によるもので、とにかく課税されているのは事実です。これが支障となって夫が財産分与を渋る例もありますので、そのような場合には、まず税理士などによく相談して解決を図るとよいでしょう。
財産の散逸・隠匿を防ぐ保全処分(仮処分・仮差押え)
離婚話が持ち上がるような夫婦は既にお互いの信頼関係が壊れてしまっていて、夫が妻に取られないようにわざと不動産の名義を他人名義にしたり、定期預金を解約して妻に分からない口座に隠してしまったりすることがままあります。また、特に妻に取られまいとするつもりはなくても、夫の浪費や借金が原因で離婚したいとうような場合は、離婚前に夫が財産を処分してしまったり、抵当に入れたりすることが、大いに考えられます。そうなっては、いざ離婚しようというときには、妻が取れるものは何も残っていないとういうことになってしまいます。
そこで、このような危険のある場合には、夫名義の財産に対して仮処分や仮差押をしておく必要があります。仮処分や仮差押というのは、妻が財産分与請求権や慰謝料請求権に基づいて、家庭裁判所や地方裁判所に、調停や判決で財産分与や慰謝料が決まるまでの間、夫の財産を仮に差し押さえるとかの命令を出してもらう制度です。仮処分や仮差押の手続きはかなり複雑で専門知識を要しますので、弁護士に相談や手続きを依頼した方がよいでしょう。