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離婚調停とは
離婚調停は、夫婦間で離婚の話し合いができないとき、あるいは話し合いが進まないときに、裁判所(の調停委員)が間に入ってもらって、離婚するかどうかや離婚の条件(親権・養育費・慰謝料・財産分与・面会交流、婚姻費用等)を間接的な形で話し合う手続きです。
離婚をする場合はいきなり離婚裁判はできないので、まずは家庭裁判所に離婚調停の申立てをしなければなりません。(調停前置主義、家事審判法第18条)家庭裁判所では、離婚調停のことを夫婦関係調整調停と呼んでいますが、これは”まずは円満解決の話し合いをして、それでも駄目なときに離婚を考えましょう”という建前があるからだと思われます。
調停調書の効果
離婚調停で離婚の合意が成立すると、裁判官は調停内容(当事者が合意した事項)を当事者に確認し、調停調書を作成します。家庭裁判所が作成した調停調書は”確定判決と同じ効力”があるので、相手方が義務を履行しない場合は、直ちに相手方の財産を差し押さえ、財産分与・養育費・慰謝料などの債権を強制的に実現することができます。確定判決と同じ効果が発生することことから、原則として後から不服(無効や取消の請求)を唱えることはできません。
夫婦の合意なくして離婚が成立することはない
離婚調停の手続きには強制力がありません。ですから、離婚調停で不貞行為の事実が明らかになったとしても、夫婦の合意なくしては離婚は成立することはありません。不貞行為は法律上の離婚原因(民法770条1項1号)に該当しますが、調停で離婚が成立する要件は、あくまでも”夫婦の合意”であるため、調停では離婚を強制できない、ということです。
離婚調停の流れ
離婚調停は以下の流れで進行していきます。
- 申立人が調停申立書を家庭裁判所に提出(又は送付)
- 家庭裁判所が申立書の受理
- 裁判所が当事者双方に呼出状を送付
- 第1回調停(調停申し立てから約1か月後)
↓約1か月 - 第2回調停
↓約1か月 - 第3回調停
↓約1か月
※こんな風に概ね1か月ごとの調停が3~6回くらい行われることが多い。 - 調停終了(調停の成立・不成立・取下)
※都合が悪いときは申請により期日を変更してもらうことができます。
離婚調停を申立てるのはこんな場合
調停の申し立てに法的な離婚理由は必要ありません。夫婦問題の調停には、離婚を求める離婚調停と、関係修復を求める円満調停の2種類があるので、こんな思いの方も申し立てができます。
離婚すべきか迷っているんだけど、夫と直接話せないのよね…
離婚には合意しているんだけど、条件が折り合わないのよね…
離婚をしたいけど、妻が離婚に同意してくれないんだよね…
夫から何度も離婚を申し入れられてるけど、そういう話は直接聞くのはメンタル的にキツイのよね…
離婚調停の期間
離婚調停が1回で済むことは極めて稀です。大体月1回の間隔で行われ、半年位かかるこもあれば1年以上かかるケースもあるようです。離婚調停の期間は、申立先の裁判所・調停委員の方針によって大きく左右されているようです。
調停委員によっては「どんな理由があろうと調停は3回で終わり!」などと一方的に決めつける者もいるようですが、回数は決まっていません。調停委員がそういった態度をとる場合は、調停委員の問題ある発言を他の裁判所職員等に告げ、態度を改めさせるか調停委員の変更を申し入れた方がいいでしょう。
離婚調停の所要時間
離婚調停の時間ははっきりとは決まっていませんが、お互い約30分調停員と話す機会が2回与えられるので、1回の調停で一人が話せう時間は約1時間です。1回の調停では、お互い1時間ずつ話すことになるので、離婚調停の所用時間はトータルで2時間程度となります。双方から約30分程度、交互に話を聞いてくケースが多いようですが、「誰の目にも一方に問題があることが明らか」と考えられる場合は、問題ある当事者の話に時間を割くことが多い感じですね。
離婚調停の申し立て
夫婦関係調整調停には”離婚調停”と”円満調停”の2種類がありますが、申立書の「申立ての趣旨」の中で”夫婦関係解消”を選ぶと離婚調停となり”円満調整”を選ぶと円満調停となります。いずれを選んでも、調停開始後に支障が生じることはありません。
年金分割の按分割合(分割割合)に関する調停を求める場合は 「年金分割のための情報通知書」も添付する必要があります。(調停開始後に追加で提出しても構いませんし、調停成立後に別途申し立てることもできます。)情報通知書の具体的な請求方法は、社会保険事務所(厚生年金の場合)又は各共済年金制度の窓口にお問い合わせください。
離婚調停の申立先は、原則として「相手方の住所地の家庭裁判所」です。しかし、特別の事情がある場合(高齢で長旅に耐えられない、等)は「自庁処理上申書」という申立書を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所に認められれば、相手方の住所地の家庭裁判所以外の家庭裁判所で離婚調停(又は円満調停)を行うことができます。また、当事者の合意があれば、全国どこの家庭裁判所にでも離婚調停の申し立てをすることができます。(合意管轄)
離婚調停(円満調停)の申立書は、申立先の裁判所に行けばもらえます。ただ、家庭裁判所のホームページからでもダウンロードできますので、自宅のプリンターやコンビニのコピー機などでプリントしても構いません。ダウンロード先はネットで「離婚調停 申立書」などと検索すると、「夫婦関係等調整調停申立書」と題した書面だけのダウンロードページが表示されたりもしますが、地域ごとにその他の付属書面の提出が求められていたり、様式が若干異なっていたりもしますので、検索する際は先ほどの「離婚調停 申立書」に地域名を加えて検索してください。
ちなみ、夫婦問題相談所がある岡山の家庭裁判所では、調停申立書の他に、①手続説明、②重要・必ずお読みください、③事情説明書、④子についての事情説明書、⑤進行に関する照会回答書、⑥送達場所等届出書、といったタイトルの書面(PDF・ワード・エクセル)のダウンロードリンクが貼られていますので、参考までにウェブページをご紹介しておきます。
- 離婚調停の申立書 1通
- 夫婦の戸籍謄本 1通
- その他、家庭裁判所が提出を求めた書面
離婚調停を申し立てる際に、家庭裁判所に支払う費用と購入先は以下のとおりです。
- 収入印紙 1,200円分
- 郵便切手 約800円
正確な金額は申立先の家庭裁判所によって若干異なりますので、申立先の家庭裁判所に電話して確認しましょう。※ネットで「申立先の家庭裁判所名称 予納郵便切手」と検索すると、各裁判所ごとの予納郵便切手が記載されたPDFファイルがみつかることが多いですが、分からりづらいので電話で確認するのがベストだと思います。 - 購入先
収入印紙と郵便切手は、郵便局やコンビニで購入できます。申立先の家庭裁判所内にある売店などで購入できるケースもありますので、家庭裁判所に直接赴いて離婚調停の申し立てをされる方は、事前に家庭裁判所内で購入できるかどうかを問い合わせておくといいでしょう。
離婚調停の構成員
離婚調停には調停委員2名と家事審判官1名が出席します。調停委員は原則として男女一人ずつで、人生経験が豊富?と考えられている民間人が選ばれています。弁護士・司法書士・カウンセラー・・・などの一定の肩書き・資格を持っている者が多いようです。裁判官は毎回は出席せず、調停が終了に近づいた段階で出てくることが多いようです。
調停の進行・立会人
離婚調停は、調停委員の立会いのもと進められます。当事者双方あるいは交互に調停室に入り、調停委員が婚姻から離婚に至るまでの事情や離婚条件の希望などを聞きます。本人出頭が原則ですが、例外的に弁護士は代理人として出頭したり、裁判所の許可が出れば、親や兄弟が立ち会うこともできます。
離婚調停の終了及びその後の手続き
当事者が調停の場において離婚の合意をした場合、裁判官は調停内容を当事者に確認し「調停調書」を作成します。正確な調停条項を記載した調停調書がすぐに用意できて、お互いがその内容に合意できるなら、その時点で調停離婚は成立し、離婚の成立日となります。
ただ、細かなな調停条項の調整や当事者の最終確認に時間がかかるような場合は、次回調停で最終確認をする展開になります。その場合は次回調停の前に、裁判所書記官が当事者双方に正確な調停条項の確認を求め、調停の当日は当事者双方が最終確認をして、問題なければ調停成立となります。
調停が成立したら、当事者のどちらかが役場に(報告的な意味合いで)離婚届を提出しなければなりませんので、調停の際にどちらが提出するかも確認しておきましょう。離婚届は、調停成立日から10日以内と期限が定められており、正当な理由がなくこの届出を怠ると、5万円以下の過料(戸籍法第135条)に処せられる可能性がありますので、離婚届は忘れずに提出しましょう。ちなみに、協議離婚の場合は離婚届に相手方と証人の署名・押印が必要ですが、調停離婚の場合は不要です。
調停不成立による終了とその後の手続き
裁判所は次のような場合に、調停不成立の判断を下して調停が終了します。
- 膠着状態が続いて対話が進展しない場合
裁判所が「同じ話が続くばかりで、これ以上調停を続けても意味が無い(合意の見込みがない)」と判断した場合は不成立とされる可能性があります。その判断の時期は裁判所や調停員によってまちまちですが、一般的には半年程度が一つの目安になると考えておけばよいと思います。(半年経過しても調停成立の見込みがある場合は、特別の事情が無い限り調停は継続します。) - 当事者が調停に出頭しない場合
調停は当事者双方が出席しないと話が前に進みませんので、当事者の一方又は双方が出席せず、その後も出席が見込めないと裁判所が判断した場合は、調停不成立で終了となります。 - 当事者が調停を続ける意思が無い旨の意思を表明したとき
当事者の一方又は双方が裁判で争う決意をしたとか、何らかの事情で調停に出席しない旨の意思を表明した場合は、調停不成立となります。
家庭裁判所の調停不成立の判断に対して不服申立はできません。不成立になった場合、離婚を求める側は、以下の選択肢のどれを選ぶことになります。
申立人が調停を取り下げたいと考えたときは、相手の同意や理由も必要なく、いつでも取下書を提出して一方的に取り下げることができます。
- 一旦離婚をあきらめる
- 再度離婚の協議を持ちかける
- 離婚の訴え(裁判)を起こす
悲しい離婚調停の実態
実際に調停を経験した人はよくご存知かもしれませんが、申し立てを行ってから第1回目の調停までかなり時間がかかります。一般的には約1か月後ですが、相手方との調整がつかなければ、2~3ヶ月経っても開催されないこともあります。
更に、当事者双方が調停ですぐに決着しようと意気込んでいる場合でも、裁判所や調停員の都合によって、開始が遅れる場合もあります。こうなると、早期解決を願っている人にとっては「イライラする制度」に感じられると思います。更に更に、長い時間待って待ってやっと始まった最初の調停でも失望することは結構あります。当事者が調停の長期化を防ごうと、予め経緯の一覧表や論点の整理をした資料を提出しても、ろくに資料には目を通してもらえていなくてがっかりする方も多いです。
仕方なく最初から経緯を話していくと、ある程度経緯を話しただけで調停が終わったりするのが普通です。調停で話せるのはお互い1時間くらいですから、それだけの時間で夫婦の複雑な問題が片付くはずがありません。早く決着をつけたいと思っても、次の調停は概ね1ヵ月程度の期間をおいて開催されるので、当事者の力では早期解決は不可能なのです。たとえ時間がかかっても、調停の場で公平かつ的確なアドバイスがもらえるなら我慢もできるでしょう。しかし、離婚調停に臨んだ方の多くは、調停員や調停という制度そのものに疑問を抱いていることが多いです。調停員は法律の専門家とは限りません。調停は家庭裁判所の中で行う手続きですが、必ずしも法律を前提に話が進められるわけではありません。
調停員は自分の経験や常識に基づいて自由に意見を言いますが、その発言に法律的な根拠があるとは限らないので、その発言に困惑させられる方が結構多いんですね。このような事情から、調停が円滑に行われるかどうかは結局、調停委員の資質に左右される部分が多い、ということになりますね。ちなみに、調停に臨んだ方々に調停員に対するイメージに関するアンケートをしたところ、ベスト3は以下のような回答でした。
- 価値観を押し付ける
- 信頼できない
- 決めつける
なんと上位ベスト3が全て調停委員に対する不満!更に!「調停委員に望むことは?」という質問をしたところ、こんな回答が返ってきました・・・
- 価値観を押し付けないで欲しい
- 相手方に自分の意見を正確に伝えて欲しい
- 公平・中立な態度でいて欲しい
- アドバイスは具体的に言って欲しい
- 正しい知識や考え方の教示
- ちゃんと自分の話を聞いて欲しい
…悲しいかなこれが調停に臨んだ方々の多くが感じる本当の気持ちです。「自分のことを真剣に考えてくれる筈…」なんて淡い期待を抱いていると後で大きなショックを受けるでしょう。そしてこんな風に思うのです。
相手と話すのは嫌だけど、我慢して自分達で話し合った方がいいかも…
これだけ不平不満が多い調停ですが、実は「調停後に裁判に移行する割合」は調停をした夫婦のわずか1割程度に過ぎません。理由は、長い調停に疲れ切って「もう終わりにたい…」と思いはじめることが大きな要因と考えられます。考えてみれば当然の話。中途半端な状況が続いた上に、調停を続けても良い結果が期待できそうでなければそんな風に思いますよね。でも、そういった情報や雰囲気を知らない人の多くは、こんな風に考えて調停を申し立てます。
公平中立な調停員がじっくり話を聞いてくれるはず!
法律を前提とした正しいアドバイスをしてくれるはず!
自分の意向や法律を妻に上手に説明して説得してくれるはず!
しかし現実は厳しい…。調停員は、僅かな情報だけで全ての真実を悟ったかのように話し出し、一方的な価値観を押し付けてくることが結構多いです。「裁判になったら聞かれたくないことを聞かれて嫌な思いをするかもしれませんよ。それでもいいんですか?」などと、半ば脅しの言葉や態度で合意を促されてみたり…、信じていた調停員のアドバイスが間違っていたり…。
全ての調停員に問題があるとは言いません。しかし、実際に調停を行った方がの多くが不満を持っている現実を踏まえるなら、調停の制度に改善すべき点が多いことは明かですね。何ヶ月も時間をかけて、結局結論は出ず、先の展望など全く見えない・・・という状態ですから、それはもう裁判で争う気力もお互い失せた頃なんですよね。皮肉な話ですが、実はそんなお互い疲れ果てた頃が一番話が進みやすい時期。疲れ果てているので、互い「もうこれ以上の争いは避けたい」という気持ちが強くなり、譲歩しやすいようです。
お互いの譲歩によって協議が成立しても、それはあくまで形式的なものであるということ。疲れて諦めただけの話で、納得などできていないのです。従って、本質的に解決していないことだけは間違いありません。離婚手続きにおいて一番大切なのは”心の問題を解決すること”とよく言われますが、これは本当に難しい問題です…。