はじめに

離婚の話し合いに際して、別居中の父母のどちらが親権者になるかで争っており、どちらか一方が子どもを連れ去った場合、子どもの引き渡しを求める法的手段としては次の三つがあります。

家事審判または調停

”子の監護に関する処分”または”夫婦の協力扶助に関する処分”の申立てのことで、離婚していない夫婦の一方が引渡を求める場合は、まずこの調停から始めるのが通常です。この請求は家庭裁判所ではなく、地方裁判所に申し立てる「訴訟」となります。子どもが連れ去られて緊急を要する場合、すぐに弁護士に相談しましょう。

人事訴訟

離婚訴訟を行っている場合に合わせて、その裁判所に「子どもの監護等の措置」を申し立てる。

人身保護請求

法律上、正当な手続きによらないで拘束されている者の救済を求める訴訟です。請求者には制限がありませんので、他の訴訟がない場合でも単独で申し立をすることができます。ただし、「拘束の違法性が顕著(明らか)であること」が必要になりま

審判・訴訟の前に子供が連れ去られる虞がある場合

審判前の保全処分

審判、訴訟の前に相手が子どもを連れ去ってしまう可能性がある場合、子どもの安全を守るため、「審判前の保全処分」をして、子を連れ去った親に対しての子の引渡しを要求することもできます。

監護者指定の審判申立てと合わせて子の引き渡しを求め、その審判の保全処分として別個に子の引渡しを申立てればよいのです。ただ、仮処分命令を出すには、両親のいずれかを監護者とすべきか、子どもの福祉・利益の観点から十分調査されることになります。

人事訴訟法に基づく「子の監護者に関する仮処分」は、家庭裁判所に申立て、民事保全法の「仮の地位を定める仮処分」の規定を準用して判断されます。

直接強制と間接強制

審判や訴訟で勝って「引き渡せ」という命令が出ても、他方の親が、実際の引渡しをしてくれないこともあります。このような場合には、強制執行を申し立てることになりますが、強制執行の方法としては、次のようなものになります。

直接強制

裁判所の執行官が子どものところに行き、子どもを取り上げて連れてくる方法

間接強制

一定期限までの引き渡しを命じ、期限までに引き渡さなければ引き渡すまで「一定額の金額の支払い」を命じるもの。

1の方法によれば現実に引渡しがされますが、この方法は「子どもを物と同様に扱うもの」で意思や人格を持っている子どもを無視するものと考えられています。子どもがまだ意思能力のない乳幼児で、不当に拉致誘拐されている場合のように、一般道徳的にもやむを得ない緊急性の高い場合以外は、2の方法により心理的強制を与えて引き渡させるのが通常です。