性の不一致

性生活の不調和

離婚理由として最も多いのは男女とも「性格の不一致」とされていますが、実際はその中に「性の不一致」が多く含まれているといわれています。アメリカで行われたとある結婚生活の調査によると、次のような見解が出されました。

「離婚の大きな原因には”性生活の不調和”がある」と確認されました。”性的不調和は家庭不和の主な原因にはならない”と一部の精神医学者が唱えているようですが、これは暴論です。性生活さえ順調であれば、大抵の場合、他の少々の摩擦は問題になりません」

性的不満が離婚原因

また、ポール・ポピノー博士という家庭生活の権威者は、結婚の失敗は通常次の4つの原因から起こるといいます。

  1. 性生活の不調和
  2. 余暇利用法についての意見の不一致
  3. 経済的な困難
  4. 心身の異常

意外なのは、金銭問題が3位であるのに対し、性の問題が1位だという点ですね。アメリカの離婚問題の権威者たちは、口をそろえて「性生活の均衡を保つことは結婚生活には絶対に必要だ」「離婚の原因は十中八九、性的不満である」と言います。

また、心理学者として有名なジョン・ワトソンも「セックスが人生の最重要問題であることは明白だ。セックスは人生の幸福を左右する」と断言しています。

ここまで多くの権威者が「離婚の原因は十中八九、性的不満である」と言っているのに対し、日本の家庭裁判所で行った調査で「性的不調和」を離婚原因に上げる人は案外少ないのですが、それは何故でしょうか。それは「当事者自身に性的不調和の認識が薄い」ということが挙げられるかと思います。

「心が離れると体も離れる」という認識はあっても「体が離れると心も離れる」という点は見落とされがちです。心と体は表裏一体。どちらか一方のバランスが崩れれば、もう一方も崩れてしまいます。自然の本能に対する無知によって結婚生活が破壊されてしまうのはいかにも残念なことです。


正しい性の知識を持つことの重要性

性の均衡が破れると他の要素は一切無駄になる

結婚における性生活の均衡は、非常に難しい問題であるにもかかわらず大抵の場合、成り行きにまかされている。

多くの夫婦は真の結婚生活を送っているのではなく、単に離婚しないでいるに過ぎません。牢獄につながれているようなものです。幸福な結婚は成り行きにまかせたのではとても望めません。

賢明に、慎重に計画されて、初めてそれを築きあげることができるのです。もちろん、結婚生活を幸福にする要素はいろいろあり、性の問題はその一つにすぎません。しかし、性の均衡が破れると他の要素は一切無駄になってしまいます。その均衡を保つためには必要なもの…それは「正しい性の知識」です。

結婚生活の考え方と実際について、割り切った態度で、遠慮なく論議を重ねてください。性知識を正しく教える適当な書物を読んでください。そうした性知識の積み重ねこそが真の結婚生活を送る原動力になるのです。


裁判所が離婚原因と認めた性の不一致

性の不一致の具体例

性の不一致にもその内容は色々あります。裁判で実際に認められたものを下記に掲げますのでご確認ください。 
  1. 性交不能
    病気や高齢による性交不能は離婚原因とはなりませんが、性交不能のため愛情を喪失し、破綻に至った場合は離婚原になる場合があります。
  2. 性交拒否
    性交拒否のため愛情を喪失し、破綻に至った場合は離婚原因になる場合があります。(性交渉の拒否が、即離婚につながるわけではありません。)
  3. 異常性欲
  4. 潔癖症(性に対する嫌悪感)
  5. 異常な性的嗜好
  6. 同性愛者
  7. その他
    ◎子どもができないことが引き金となって、夫婦仲がぎくしゃくとしてきた時「婚姻を継続しがたい重大な事由」を理由とする離婚が問題となります。

夫が性交渉を拒否した事例(慰謝料120万円) 

性交渉拒否に関する事実関係

  1. 夫は交際と称して好き勝手に出歩いていた。
  2. 生活費にも事欠く状態のときに、夫は妻と話し合いの機会を持たなかった
  3. 夫も多忙だったとはいえ、家庭を顧みて妻の不満を解消する努力が十分でなかった。
  4. 性交渉は入籍後約5か月内に2、3回程度と極端に少なかった
  5. 性交渉がない中、妻自身はポルノビデオを見て自慰行為をしていた。
  6. 「性生活に関する夫の態度は異常だ」と指摘する妻に対して、夫は一旦は改善を約しながら依然として改めていない
  7. 妻は夫への愛情を喪失し、婚姻生活を継続する意思が全くない

裁判所の判決
婚姻生活は既に破綻しており「婚姻を継続し難い重大な事由」がある、として夫に慰謝料120万円の支払いを命じた。(平成5年3月18日 福岡高裁判決(要旨))


病的な性的嫌悪感に関する事例(慰謝料150万) 

病的な性的嫌悪感に関する事実関係

  1. 夫31歳・妻27歳(ともに再婚同士)
  2. 妻は異性に触られると「気持ちが悪い」と言い、婚姻当初から別居に至るまで性交渉を拒否し続けていた。
  3. 性交渉がないため、喧嘩が絶えず、夫婦生活が破綻していた。
  4. 妻は、精神的な面で性交渉に耐えられない、と医者から診断されていた。
  5. 妻は、前夫との婚姻の時も性交渉を拒否しており、慰謝料100万円を支払って別れていた。
  6. 夫婦は結婚後9ヶ月で協議離婚をし、夫は妻に対して慰謝料の請求をした。

裁判所の判決
妻の男性との性交渉に耐えられない性質から来る夫との性交渉拒否により両者の融和を欠いて破綻するに至ったものである。

婚姻は一般に子孫の育成が重要な目的であることが常識であって、夫婦間の性交渉もその意味では通常伴なうべき婚姻の営みであり、当事者がこれに期待する感情を抱くのも極当たり前の自然の発露である。

しかし妻は夫と婚姻しながら性交渉を全然拒否し続け、「気持ち悪い」というような言動・行動に及ぶなどして婚姻を破綻させたのであるから、夫に対し、不法行為責任に基づき、精神的苦痛を慰謝すべき義務がある。

夫に認められるべき慰謝料額は、本件に顕れた一切の事情を総合勘案し、金150万円が相当である。(平成3年3月29日 岡山地裁津山支部判決(要旨))

批評
性交渉拒否に有責性を認めた判例ですが、この判決については、病的な性的嫌悪感や体質的な性的不能など、本人に帰責事由がないと考えられる場合にまで慰謝料が認められるはおかしいという強い批判があります。

なお、性的不能であることを婚姻前に告知すべきであったのに告知しなかったがために婚姻関係が破綻したことについて、相手方の信頼を背く不法行為責任であるとして慰謝料が認められた事例(京都地裁昭和62年5月12日判決)もあります。


夫が性交渉をしなかった事例(慰謝料500万円) 

性交渉をしなかった事実関係

  1. 婚姻期間 約3ヶ月
  2. 夫が性交渉に及ばなかつた真の理由は明らかでない
  3. 夫は性交渉のないことに妻が悩んでいたことを全く知らなかったと主張
  4. 夫は夫婦が性交渉をする思いが及ばなかったか、もともと性交渉をする気がなかったか、あるいは被告に性的能力について問題があるのではないか、と疑わざるを得ない。

裁判所の判断

離婚の原因は、夫が性的交渉を持たなかったことにある。離婚により妻が多大の精神的苦痛を被ったことは明らかであり、夫は妻に対して慰謝料500万円の支払をする義務がある。 (平成2年6月14日京都地裁判決)



性的不能を隠して結婚した事例(慰謝料200万円) 

性的不能を隠して結婚した事例

  1. 結婚から離婚までの約3年6ヶ月の間に一度も性交渉はなかった。
  2. 夫の性的不能を直すため、大学病院等で診察を受けたが性的不能状態に変化はなかった。
  3. 夫は、婚姻に当たり自らが性的不能であること隠していた。

裁判所の判断

婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻中における両当事者の行為や態度、婚姻継続の意思の有無など、当該の婚姻関係にあらわれた一切の事情からみて、婚姻関係が深刻に破綻し、婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合をいう。

婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の同意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として、婚姻を継続し難い重大な事由に当たるというべきである。

夫が婚姻するに際し自己が性的に不能であることを隠していたこと、夫の性的不能及びこれに基因する婚姻生活の破綻により妻が精神的苦痛を被ったことが認められる。

婚姻生活における性関係の重要性、さらには、性交不能は子供をもうけることができないという重大な結果に直結することに照らすと、婚姻に際して相手方に対し自己が性的不能であることを告知しないということは、信義則に照らし違法であり不法行為を構成する。

妻の慰謝料請求については金200万円の限度で理由があるから認容する。(京都地裁昭和62年5月12日判決(要旨))

批評

本判例は「性交請求権」つまり夫婦間の性交は婚姻を形作る重要なものであるとして、性交不能を婚姻前に相手に伝達していなければ不法行為となり損害賠償及び離婚の対象となるというものです。